BL40XU 高フラックスビームライン

 BL40XUはヘリカルアンジュレータを光源とし,モノクロメータを用いず垂直水平2枚のミラーで集光を行うビームラインである。


アンジュレータ

仕様
周期長 36mm
一次光エネルギー範囲 8-17 keV
磁場データ

エネルギー範囲
 一次光を直接利用する設計なので,アンジュレータの出せる一次光の範囲が使用できるX線のエネルギー範囲となる。アンジュレータのギャップフルオープンで17keV,最小ギャップ(8.3mm)で8keVとなる。ただし8keVでは後述のように2次高調波の除去が不十分になる可能性がある。

エネルギー分解能
 モノクロメータを使用しない設計のため,使用できるX線ビームのスペクトルはアンジュレータの一時光のスペクトルそのものとなる。1999年11月現在のリングの運転モードでは,水平15マイクロラジアン垂直5マイクロラジアンを利用したときに,計算上半値幅1.6%のスペクトルが得られるはずである。

エネルギースペクトルの計算値
SPECTRAによる

光学系

概念図

フロントエンドスリット
 上の図にはないが,もっとも重要な光学要素として,光源から約22mに置かれている半固定マスクがある。これでアンジュレータの放射X線の中心部だけを取り出す仕様である。ヘリカルアンジュレータは,高調波の大部分を軸外に放射するため,このマスクによって大部分の高調波が除かれ,それによって大部分の熱が取り除かれる。マスクは縦横1mmの大きさである。マスクは開口は変えられないが,動かすことはできる。この後ろに開け閉めの出来るフロントエンドスリットがある。

ミラー
 ミラーは,ロジウムでコーティングした平板シリコンミラーを湾曲して使用している。ミラー上でのビームのフットプリントを大きくして熱負荷を下げるために,一枚目は水平ミラーとし,3ミリラジアンの入射角で使用する。垂直方向は,4ミリラジアンの下振りミラーである。いずれのミラーも水冷である。4ミリラジアンのロジウムコーティングのミラーでは,16keV以上のX線の反射率は低く,22keV以上では2枚のミラーによる反射率は0.1%以下になる。上の図にあるようにヘリカルアンジュレータの光軸付近の高調波成分はもともと少ないので,これらのミラーで高調波はほぼ完全に除去できる。
 ミラーは光源とフォーカスを4:1に分ける位置に置くので,集光は4:1の縮小系となり,2004年4月現在水平方向0.20mm,垂直方向0.04mm程度のフォーカスが得られている。
 高調波の除去を効率的に行うために,一枚目の水平ミラーはロジウムの他ニッケルでもコーティングされており,またコーティング無しの部分(素材のシリコンで反射する部分)もある。高調波の除去を参照のこと。真空パイプの径の制約から,ミラーの降り角は大きくは変えられない。

実験ハッチ

実験ハッチ概念図

実験ハッチの詳細
 冷却ベリリウム窓の後ろの配置は,基本的に実験によって自由に変更できる。最初の架台はアンカーで床に固定されており,高速X線シャッターとアッテネータ,小角散乱実験のための四象限スリットなどが置かれている。その後ろには,適当な長さの架台と小角散乱用の真空パイプなどが置かれるのが普通であるが,真空パイプは架台上に固定されないので他の実験のセットも容易に設置できる。実験ハッチには,YAGレーザー(OPO付き)が設置されている(YAGレーザーを使用希望のユーザーはレーザー使用のための手続きが必要なのでビームライン担当者に相談すること)。
 X線検出器としては低残光型X線イメージインテンシファイアと高速CCDカメラの組み合わせがある。時間分解能は,640x480ピクセルで3.4ミリ秒程度だが,画素数を減らすことによって0.5ミリ秒以上の時間分解能が得られる。検出器のページを参照のこと。

熱負荷の問題
 本ビームラインは,フロントエンドスリットで大部分の熱負荷を除去するので,ハッチの放射線遮蔽や光学素子の熱対策の問題は,他のビームラインと比較してむしろ軽減されている。じっさい,光学ハッチに導入されるX線の総熱量は数ワットに過ぎず,水平ミラーも50mW/mm^2程度の熱負荷である。しかし,この数ワットのほとんどが実験ハッチまで導入されるので,実験ハッチのベリリウム窓や試料,ビームストップへの熱負荷は十分に考慮する必要がある。
 たとえば,ビームのフォーカス位置でビームサイズは水平0.20mm垂直0.04mmで,ここに約1x10^15cpsのX線フラックスが集中する。12keVではこれは1e15*1.6e-19*12e3/0.25/0.03=256W/mm^2のパワー密度となる。熱の伝導がなければ,水は一瞬で沸騰する。
 これまでの経験では,フロントエンドスリットを全開にすると紙製の蛍光版は数秒で燃える。また鉛のビームストップは溶ける。フロントエンドスリットを絞った場合でも,例えば筋肉は10ミリ秒以下の露光で損傷を受けることがわかっている。 熱負荷に関しては,動画が参考になるでしょう。


ビームライン担当者 井上勝晶 (katsuino@spring8.or.jp)